LPSO合金の組織形成過程

Mg-RE-TM合金におけるLPSO構造形成過程と相安定性

 Mg-Y-Zn3元系をはじめとするMg基合金では長周期積層秩序構造(LPSO構造)と呼ばれる複雑な構造が形成することが河村ら(熊本大)によって明らかにされ、降温での優れた機械的強度など、新しい軽金属材料としてのポテンシャルが示されている。一方、このLPSO構造は複雑な構造を持っているため、その形成機構や構造安定性は組織形成理論の試験場としても非常に興味深い研究対象である。

われわれは放射光を利用した小角高角同時その場計測法によって、LPSO構造の基本構造単位であるいわゆるL12クラスターの形成/配列機構と積層欠陥導入の関係などについて明らかにした。

LPSO構造は上図のようにL12(ABCスタッキング)クラスターを配列した積層欠陥層(濃化層)がMg母相の5,6、あるいは7原子層ごとに長周期の積層秩序をもつことを特徴とする。クラスターのサイズや空間的な配置状態を反映する干渉ピークは小角領域に現れる。例えば上図右上は長時間熱処理によって配列状態の完全性が高まった試料の小角散乱パターンであるが、積層欠陥面内のクラスター配列秩序を反映した6回対称回折パターンと、積層欠陥面の6周期ごとの規則積層(18R)を示す鋭い回折ピークが明瞭に表れている。(一部は5周期=10H)

 LPSO構造形成の駆動力としてMgに対するY,Zn(RE,TM)の相分離挙動(スピノーダル)と積層欠陥導入に対する格子の安定性(構造相変態)の観点からの議論がされてきていたが、現実の相変態過程でどのような機構による組織形成が進むのかを明らかにするため、溶体化処理では得られない高濃度過飽和固溶体を得るためにアモルファスの結晶化を経た組織形成過程を小角高角同時測定によって観察した。10K/min. での等速昇温過程では結晶化後過飽和hcp構造が形成され、クラスターが成長した後550K近傍で大量の積層欠陥導入とクラスター間距離の濃化層面内距離と面間距離の2種類の距離への分離が観察されることがわかった。(クラスター空間分布構造の分岐現象) H.Okuda et al,Sci.Rep.2015. 等速昇温過程で観察される分岐現象では積層欠陥/濃化層間隔は18R(6N)と10H(5N)のランダム混合状態を示唆するブロードな中間位置を動くことが明らかとなった。複雑な構造をもつ組織がこのようにクラスターを単位とする特異な相変態を示すことは極めて興味深いことであり、バルク材料中でのクラスター熱力学とでもいうべき新しい分野を開く可能性を持っている。現在元素置換による相変態機構の変化などの検証を進めている。

 積層欠陥導入とクラスター成長/配列の関係を調べるため、等温過程のその場測定をおこなった。その結果、等速昇温過程で分岐現象が起こる温度より低温でも一定の活性化エネルギーを示す熱活性化過程として積層欠陥導入速度が評価できることがわかった。すなわち拡散によるクラスター成長(拡散の活性化エネルギー)と積層欠陥導入は異なる活性化エネルギーを持つ同時進行過程と理解することが妥当であると考えられる。(H.Okuda et al., Acta Mater. 194(2020)587.)


SR-SWAXS

我々の同時測定実験の様子です。(Under Constructrion)